幕が下りた、と思ったらその先に、本当の人生が待っていた
○MYベストシーン
家族は時に、ウィルスや悪性腫瘍と同じく、人を蝕み、病ませてしまう。
死に至るほどのストレス源なら、逃げるが勝ち。
もう駄目だ、耐えられないと思った時、自分の足で逃げられる力を、今のうちに育てて下さい。
○舞台に居座るワケあり女子達
本当なら今頃は残務処理も終了し、感概だの寂寥感だのを覚え、しみじみと隠居生活に入っていたところなのでしょうが…。
あにはからんや、あなた方がカーテンコールよろしく、舞台に居残ってくれたおかげで、こちらとしては寂しいとか、無念だとか、思う暇もありませんでしたよ…。
まったく残念至極、迷惑千万な話であります。
経営難で閉校する萌木女学園。
三月に最後の学年を送り届けその役目を終えようとしていた…が…
留年の落ちこぼれ達が学園に居座ったままだった
とにかく全員卒業させようとする学園側。
限界まで卒業のハードルを下げる温情。
しかしそれさえもクリアできなかったのが彼女達だ。
そんな彼女達に半年の猶予を与え、敷地の片隅で補習を受けさせる。
そして全員卒業させるというお話だ。
しかし集まった彼女達は…ひどくワケあり!
全6章に分け、オムニバス形式でそんなワケありな彼女達を知っていくのだが…
○普通が普通に出来ない彼女達
本作の主人公達は「普通できるようなことができなかった」者達。
本物のワケあり女子達なのだ。
当然、病気や体質など生まれもってのワケありな部分もある。
本作ではLGBT等のジェンダーアイデンティティーに悩む女性も登場する。
生まれてきたときからその違和感に悩み続けてきたワケありな生徒だ。
しかし、一部のワケありはボクが持っていても可笑しくないワケありを持っている。
精神的なストレスからくるワケあり症状が発生してしまう生徒…
やりたいことに熱中し、体に鞭打ってしまう生徒…
狂気的な手段を取ってでも愛情を求める生徒…
そして…
眠ること。もっといいのは、なるべく早く死ぬこと。
一番いいのはそもそも生まれてこないこと
マジもんのメンヘラちゃんもッ!
触っちゃダメ、取扱注意な生徒だ…
普通ができない彼女達
しかしその普通がちょっとした出来事で出来なくなってしまったのが彼女達。
ボクもいつワケありになってもおかしくないのだ…
○幕引きへ導く理事長
あなたは死ぬのが下手くそですが、どうやら生きる方も相当に下手くそらしい。
頻繁に死にたくなるのはそのためでしょう。だけど心配には及びません。
能力が足りないというのなら、これから学び、身につければいいのです。
今、あなたの目の前にいるのは、生きることの達人です。
この歳まで元気に現役で働いていることが、その何よりの証です。
そして私の妻もまた、同じように達人と言えます。
簡単な卒業というハードルすら超えられない彼女達。
そんな彼女達を卒業させるため導くのが学長、角田理事長
学園の幕を引くために尽力する。
そのためなら外出、ネット、面会も全部禁止!
軟禁生活の刑務所と同じような生活を送らせてでも…
父と私で造り上げた萌木女学園は、あなた方の卒業をもって今度こそ、本当に幕を下ろします。
あなた方はこれより新しい舞台に立ち、新しい脚本で、新しい人生を演じるのです。
どうか失敗を恐れないで下さい。観客を恐れないで下さい。大丈夫。
とちったくらしで死にはしません。恥なんて、かいてなんぼです。
あなた方の舞台で、あなた方は間違いなく主人公なのですから。
しかし最後の幕引き…
最後だから誰一人として取りこぼさないようにする。
舞台に残り続けるワケありな彼女達を導こうとする教育者としての姿に心震えた。
○総評
あなた方は、素晴らしい。
過酷な灼熱の太陽の下で、すっくと天を仰ぐ大輪の花のように、とてもとても素晴らしい。
これは魔法の呪文です。これから先、何か困難に出会ったとき、自己嫌悪に陥ったとき、そっとつぶやいてみて下さい。
「私は素晴らしい」と。
そしてどうかひまわりのように、常に明るい方、暖かい方を目指して進んで下さい。そうすれば、そんなに大きく間違えたりはしませんから。
あなた方という、素晴らしい花たちと、学園の最後の日を迎えられたことを、私は心より誇りに思います。
Aランク
流石、加納先生…
女学生を題材にした作品が本当に面白いッ!
よくここまでワケありな生徒が思い浮かぶなと思う。
安易な不良学生とかではなく、精神的な闇の深さによるワケありなのだから…
次の生徒はどんなワケあり生徒なのかとワクワクしながら読むことができた。
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